ある男の話(その2)
それは作り話のような本当の話なのか、現実味のある虚空の話なのかは定かではないが…私ことスタッフ野口が良く知っている男の過去の話。
その男の生まれ故郷は地味な町だった。
子供の頃から人と違ったことをするのが大好きで、変わったことして人を驚かすのが大好きだった。
運動はあまり得意な方ではない方ではなく、バランス感覚も悪いくせに、自転車で暴れまわっては怪我をし、月に最低1度は接骨院に通っていた。
彼の父親は彼が成人するまでに腕か脚どちらか1本は無くなっているだろうと予測していたらしい。
ここから先は第3人称で話をするとややこしいのでその私によく似た男になりかわり話を進めることにしよう。
昭和40年代後半
今日はお母さんの自転車の後ろに乗せてもらい買い物に出かけた。
駅から東にまっすぐの道の1個目の信号で青になるのを待っていた。
信号の反対側にオートバイが青になるのを待っている。
カッコイイなぁ~。大きくなったらあんなオートバイ乗ってみたいなぁ~。
この間テレビでやってたアメリカの子供たちがやってる、スケートボードやBMXもやってみたいなぁ~。
僕の生まれたこの町ってそういうのがないんだよなぁ~。ん~アメリカに生まれたかったなぁ~。
(信号が変わった瞬間、パイ~ンと乾いた音がして、一瞬だがオートバイの前輪が浮いた、進んだ距離にして3m弱だろうか?すぐに前輪は地面に落ちた。)
すご~い!すご~いよぉ~!!あれがウイリーって奴なんだ~!!!僕の住んでる町も捨てたもんじゃないな~!!!!いつか僕にも出来るかなぁ~
時は過ぎ元号は昭和から平成に移った。
俺は15歳で生まれ故郷を出て、今は神奈川県で学生、電気工事技師、HONDAのモデル、バイクのレーサーと4足のワラジを履き換えながら生活している。
願いは叶うもの、いや実現させるものなのか?よくは分からないが子供のころに憧れていたものはとりあえず実現している。
その中でも予想外だったのがオフロードバイクのレーサーになっていたことだ。
草レースの延長のようなものだが先日は「ウインストン スモーキングホイールラリー」というレースで「ウイリー松●」さんとグアムに行って来た。
その人誰かって?ん~勝手に俺がウイリーの師匠と思っているんだけど、前輪のないオンロードバイクでウイリーしたり、羽織袴で左手であっぱれ扇子を持ってオフロードバイクでワンハンドウイリーをする普段は人の良いやさしいバイク屋の社長。
でもキレると相当怖いらしく、ホントかウソか知らないが店のオートバイを盗みに来た暴走族を捕まえて謝らないので店の裏山にショベルカーで穴を掘って首まで埋めたとか埋めないとか…。
角川映画「汚れた英雄」の草刈雅夫が演じるレーサーのスタントをしたこともあるプロレーサー。
敵には回したくない人だ…。
この人程ではないが大分ウイリーはうまくなった。
ウイリーしながら曲がったり、片手を放したり、直線が続けば2kmは軽くいけるだろう。
そうだ…あれには笑ったな…オートバイって前輪にメーターが仕掛けてあって、ウイリーしてると実際の速度が分からないんだよね…。大きな国道の信号待ちを先頭でスタートし、ウイリーして後続の車のスピードと比較してみようってやってみたんだけど、後ろを振り返ったら車がいないいんだよね…そりゃそうだよ…ウイリー失敗して、ひっくり返ったバカを轢きたくはないもんな…。
ここまで来るのに、いっぱいコケたな。後ろにひっくりかえったり、壁に激突したり、中でも酷かったのは防波堤の上でウイリーしたらカッコイイだろうなと思って半袖、半ズボン、サンダル、ノーヘルでウイリーして失敗して、バイクもろともテトラポットに向かってダイブしたことかな?
あれは落ちるスピードがすげーゆっくりに感じた
。本当に走馬灯のように過去の出来事が次から次に思い浮かんできた。
死ぬかと思ったもんな…。
逆上がりもできない、あれだけ運動が苦手だった子供が運動能力、運動神経、バランス感覚がずば抜けた人間になるんだから人生って不思議だな…。
さて今日はそんな感傷に浸ってる場合じゃないんだった…。今日は久々に帰郷し子供のころの夢を実現しに来たんだった…。
久々に帰ってきたものの、相変わらず静かな町だな…平日の昼過ぎとはいえ、駅前通りも車がほとんどない…。
でも懐かしいな…やはり故郷っていいものだな…。
そうそうこの場所。駅前通りの一個目の薬局の信号。
お袋の自転車の後ろに乗ってたっけ…。ほんのちょっとバイクの前輪が浮いただけなのに「ウイリーだ!ウイリーだ!!」って騒いでたっけ…。
あれはウイリーじゃないよ…フロントアップっていうんだよ…幼き日のオレ…。
今の俺ならあんなことは朝飯前だよ、幼き日のオレよ…もっと面白いものを見せてやるよ…きっとお前が見たら仮面ライダー?スーパーマン?いや多分目をまん丸にしてお袋の自転車の後ろで洩らすんじゃないか?
駅前のロータリーからここまで400m、次の小学校の信号200mまで…スタートのタイミングと車がいなければ十分走り切れる…。
では、いっちょやってみますか!車も人もいない…駅のロータリーを回り、一個目の信号が赤になり少し時間をあけてスタート!
アクセルを軽くあおり1速スタート!
半クラッチを当て2速にギアチェンジをしアクセルをあおり体重を後ろに掛けながらクラッチを放す!フロントタイヤが浮き安定するが、このままではエンジンが吹けきるので車体を後ろに倒し気味にしてギアを3速に入れる!
その瞬間1個目の信号が青になる。いける!
後はギア比が離れてはいるが4速にうまく入れば問題ない!入った!!後は慣れたものだ!1個目の信号を通過!
幼き日のオレ見てるか?そこにお袋の自転車の後ろに乗った自分を見たような気がした…。
さぁ2個目の信号はと?ギリギリ抜けたが、3個目の信号で捕まった。まぁ~こんなもんだろう。距離にして800mか良しとするか。
あまり人はいなかったが、市民の反応が気になるので駅に戻るとしよう。
戻る途中、初老のご婦人が両手を上げて何か叫んでいる。
なんだ?こういうのが好きなのか?それとも熱烈な俺のファンか?とりあえず止まってみよう。
良く見ると顔に笑顔の欠片もない…顔を真っ赤にして怒っている!
おばちゃん:「ちょっと!あんたなんて運転してるの!!」
(ヤバい…簡単には怒りを鎮めてくれそうにもなさそうだ…何かいい方法はないだろうか?
あっそうだ!この手で行こう!!)
俺:「どうしたんですか?何かあったんですか?」
おばちゃん:「どうしたんですか?じゃないわよ!あんな運転して!!」
俺:「えっ?あんな運転って?」
おばちゃん:「前輪がこんなに浮いてたじゃないの!」
俺:「えっ?それ僕じゃないですよ」
おばちゃん:「うそよ!だって真っ赤なオートバイに真っ赤な服に真っ赤なヘルメットであんたと同じ格好だったわよ!!」
(確かに俺の恰好は派手だけど良く見てるな…きっと長生きするね…)
俺:「あ~!それならさっきすれ違いましたよ!僕と似たような格好で、似たようなオートバイで前輪をグァ~って上げて東の方に走って行きましたね!」
おばちゃん:「えっ!あんたじゃないの?そっくりだったんだけど?」
(大分怒りのボルテージが下がって来てる…もう一息だ…)
俺:「確かに似てましたねぇ、あんな運転良くないですよねぇ、同じバイク乗りとして恥ずかしいですよ!ホントに!!」
おばちゃん:「アラごめんなさいねぇ…ホントに…そっくりだったものだから…」
俺:「いえいえ、いいんですよ」
おばちゃん:「あなたも気をつけて運転してね」
俺:「では、失礼します」
(やれやれ、なんとか収まった…。)
駅前のロータリーまで戻ったがあまり人の反応はない、もう一回やってみるか?
さっきと同じ様にスタートするが、違うことが一つだけある。おばちゃんだ!
いた!目が点になっている!
すれ違いざまに左手を放し、二コリと笑って投げキッスをする。
バックミラーで後ろを見るとさっき以上に両手を突き上げ体全体で怒りを表している。
アクシデントはあったが夢はまた一つかなった。
さて次はどんな夢に挑戦しようかな?
続く
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