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2008/12/17

ある男の話

それは作り話のような本当の話なのか、現実味のある虚空の話なのかは定かではないが…

私ことスタッフ野口によく似た男の過去の話。

その男は24歳から32歳の夏まで東京に住んでいた。

趣味は自転車とオートバイとウイリーと酒…給料の大半をそれらにつぎ込んでいた。

簡単に言うとただの「ろくでなし」だ。

喧嘩っ早く、正義感が強く、ちょっぴりさみしがり屋な男だ。

彼の父親は彼の末路を「いつか繁華街でチンピラに刺されて死ぬだろう」と予測していた。

ここから先は第3人称で話をするとややこしいのでその私によく似た男を「野口」と称することにし、話を進めることにしよう。

1999年1224日クリスマスイブ

世田谷のボロアパートは年の瀬の寒さをしのぐのがやっとだ

6年勤めた会社を「ノストラダムスの恐怖の大王がやってくるので」という理由で6月に辞め、定職にも就かず毎日オートバイに乗り、プラプラと生活している。あっという間の半年だった。

世間では就職難といわれて渋谷のハローワークでは部屋から失業保険の手続きに来た人たちであふれ、自己理由の退社などはどうやら僕だけのようだ。「ノストラダムスが…」などと今、口にしたらどうなることだろうか?付きあっていた女が逃げるように去って行ったのもうなずける

職なし、女なしのクリスマスイブだが、不思議とさみしくはない…今日は恒例?のパレードがあるからだ。

なんのパレードかって?オートバイ仲間とサンタの格好してバイクを乗りまわし、景気が悪そうに歩く街の人々に幸せを届けるパレードさ。

(その男達の集まりは揃いのG-ベストに革ジャン、ブーツカットにエンジニアブーツにリッターバイクのバイク乗り集団、背中には「ALMANAC FAR EAST TOURS(アルマナック極東旅団)」の文字と方位磁針が刺繍してある)

時は遡ること数時間前、アパートの電話が鳴る。

ザキ:「もしもしノグッさん?ザキっす!サンタやりましょうよ!サンタ!」

野口:「いいけどどこで?神奈川?」(僕のチームの後輩は神奈川に住んでいるものが多 

い)

ザキ:「東京で!」

野口:「いいけど、あと誰がやるのよ?」

ザキ:「自分とアラとクロちゃんがいます。渋谷のハンズでサンタスーツ買ってノグッさんちに

    行くッス、ノグッさんサンタスーツあるんスか?」

野口:「サンタスーツと、トナカイスーツと雪だるまスーツ持ってるよ」

ザキ:「………とりあえず、あとで行きます!」

なんでそんなに持ってるかって?前の会社の上司の子供たちにサンタの格好して営業車のソリに乗って、プレゼントを配ってたからさ。でも俺がサンタの格好で運転して、道を知らない同僚がトナカイで助手席だったな…信号待ちが恥ずかしかったな…

そうだ田園調布のノザも誘ってみよう。奴もイブに男一人じゃ寂しかろう。

野口:「あ~ノザ?今日ザキとサンタやるんだけどお前もやる?」

ノザ:「マジっすか?やるッス!でもスーツがないッス!」

野口:「トナカイスーツならあるよ」

ノザ:「………とりあえず……あとで行きます………」(なんか不満そうだ)

しばらくすると全員集合。しかし神奈川組の3人の元気がない。

聞くところによると、渋谷のハンズに行ったがサンタスーツが売り切れでトナカイスーツしかなかったらしい。

もう一人不満そうな顔をした男が1人…ノザだ。顔は整っているのだが体はかなり細い、貧相な「キアヌ・リーブス」って感じだ。

ノザ:「なんでノグッさんがサンタで僕がトナカイなんすか?」(おいおい貸してもらう人間のセリフか?まぁいい交換してあげよう)

鏡には貧相なサンタクロースと、とても草食動物とは思えない恐竜のようにごついトナカイが写っている。ノザも理解したらしく渋々だが元の衣装に戻った。全員がボロアパートの一間で着替えを始める、学芸会もビックリのゴタゴタ騒ぎだ…着替え終わるとサンタが1人とトナカイが4匹。数的にはバランスが取れているが何かが変だ、貧相なノザトナカイと天まで届きそうな身長190cmの巨大クロちゃんトナカイがいる。なんかすごい事になりそうだ…。

まあいいとりあえず出発するか?スーツの上から揃いのG-ベストを着て帽子は懐にしまい、ヘルメットをかぶりグローブをし、イグニッションキーをひねる。爆音とともに重低音のエンジン音が響く。

野口:「ところで何処行くんだ?」

ザキ:「お台場行きたいッス!」

野口:「じゃぁ行こうぜ」

全員:「……………………」(トナカイ達が前に出ようとしない。)

野口:「どーしたんだ?行こうぜ!?」

全員:「…………道分かんない…………」

野口:「道分かんないって、目の前の甲州街道左折して新宿向かって首都高を高井戸から入ったらお台場まで1本だろ!?」

全員:「……………………」

野口:「わかったよ、俺が先導な!」

いよいよスタートだが何かが変だ…なんでサンタが先頭でその後にトナカイが続く?変だよ!って言うか恥ずかしいよ!早くお台場に行かなきゃ!脳裏には営業車サンタ事件が浮かぶ…あぁ悪夢だ…

案の定甲州街道では注目の的だ、早く首都高に乗りたい

首都高の渋滞情報盤を見ると中央道からお台場まで渋滞しこれから行こうとしている道が真赤に塗りつぶされている。まるでレッドカーペット、花道のようだ…トナカイを引き連れたサンタクロースが車をすり抜けながらお台場まで行くのか…。溜息も出ないぜ…。

料金所で通行料を払い料金所のおっさんに「メリークリスマス!」と挨拶をし、渋滞の中に突っ込んで行く。さすがに止まっているに近い車の間を100以上のスピードですり抜けるのはちょっとばかりスリリングだ。心臓を摑まれて押し上げられているような感覚がある。もし浮かれた若造が「運転こうた~い!」などとドアを開けられたらたまったものじゃない。何十メーター先の車の中の人の動きに注意をしながら運転をしなければならない。

車の中の人たちの動きはだいたい予想出来る。バックミラーにバイクのヘッドライトがぽつぽつとともり始めた瞬間に爆音が響き渡り、気がつくとサンタを先頭にトナカイ4匹が走り抜けてゆく…

大体の人間は唖然とし笑いだすだろう。滑稽で愉快だ。まさにクリスマスだ。めでたい、めでたい。

とりあえず無事お台場に着く。「お台場デックス」に向かうが周りはカップルばかりだ。

しばらくカップルたちは遠巻きに不思議な集団を眺めているが、女のほうが近づいて「一緒に写真撮ってもらっていいですか?」と可愛らしく声をかけてくる。だいたい男の方は交渉が成立すると、あまり関心なさそうに「しょ~がね~な~」ってな感じで写真を撮る。

やがて記念撮影のラッシュとなる。なんか人気物になった気分だ。

しばらくすると

女の子たち:「うわぁ~!トナカイ、デカっ!」(クロちゃんトナカイのことだ)

女の子たち:「身長どのくらいあるんですか?」

照れくさそうに

クロちゃん:「2m11cmです」

野口:「な~クロちゃんて、2mも身長あったっけ?」

アラ:「トナカイの角含めるとそ~らしいッス」

普段おとなしいクロちゃんもエンジンがかかってきたらしい。

アラとザキも相当エンジンがかかってきたらしい。聖なる夜の記念撮影なのに、「志村けんのバカ殿のアイ~ン」をやっている。しかもカップルにまで強要している。こんな観光地でトラブルを起こさなければいいのだが…。この二人とても仲が良く揃ってテンションが高くなるとナンパが始まり、乱闘事件を起こす始末。本当に仲が良く、一緒に留置所に一晩泊まるくらいの仲の良さだ。

しかし記念撮影をとれどもとれどもきりがない、いい加減疲れてきた。

記念撮影が終わると女の子から「寒い中、お仕事がんばってくださいネ!!」などと言われるが

メンバー全員力強く「趣味です!!」

大概みんな唖然としている。当然だろう…こんな頭の悪い連中はざらにいないだろう。

いい加減疲れみんなベンチに寝転がり頬杖をついて煙草を吸っていると周りから、「ガラの悪いサンタとトナカイだ!」とか「仕事サボってるサンタとトナカイだ!」と聞こえてくるが、

メンバー全員:「仕事じゃなです!趣味です!!」

さて疲れてきたし、飽きてきたので帰るとするか…。しかし何組のカップルと写真撮影をしたんだろう?そして何組のカップルが生き残るだろう?ま~俺の知った事ではないな。でも「アイ~ン」をやっているサンタとトナカイ達の写真が全国にざっと100枚以上存在するかと思うと笑えて来る。

帰りの首都高は真夜中の2時を回りガラガラで祭りの後って感じだ。左手にお台場を眺め、アクセルをひねる、メーターは一瞬で180に針が到達する。年の瀬の空気は冷たいが、騒いだ後にはとても心地よい…。そんな余韻に浸っていた時だった…風圧でサンタベルトが吹っ飛んだ!サンタひげもサンタキャップも吹っ飛んだ!あぁ来年はサンタスーツ新調しなければ…でも当日に買いに行くのはやめよう、売り切れているだろうから…。

その2に続く

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